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じゃしゅうもん
邪宗門
「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页
」と独り語のように仰有いました。すると若殿様はいつもの通り、美しい歯を見せて、御笑いになりながら、
「されば果なくないとも申されまいな。が、われら人間が万法の無常も忘れはてて、蓮華蔵世界の妙薬をしばらくしたりとも味わうのは、ただ、恋をしている間だけじゃ。いや、その間だけは恋の無常さえ忘れていると申してもよい。じゃによって予が眼からは恋慕三昧に日を送った業平こそ、天晴知識じゃ。われらも穢土の衆苦を去って、常寂光の中に住そうには伊勢物語をそのままの恋をするよりほかはあるまい。何と御身もそうは思われぬか。」と、横合いから御姫様の御顔を御覗きになりました。
十九
「されば恋の功徳こそ、千万無量とも申してよかろう。」
やがて若殿様は、恥しそうに御眼を御伏せになった御姫様から、私の方へ、陶然となすった御顔を御向けになって、
「何と、爺もそう思うであろうな。もっともその方には恋とは申さぬ。が、好物の酒ではどうじゃ。」
「いえ、却々持ちまして、手前は後生が恐ろしゅうございます。」
私が白髪を掻きながら、慌ててこう御答え申しますと、若殿様はまた晴々と御笑いになって、