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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

「いや、その答えが何よりじゃ。爺は後生が恐ろしいと申すが、彼岸に往生しょうと思う心は、それを暗夜の燈火とも頼んで、この世の無常を忘れようと思う心には変りはない。じゃによってその方も、釈教と恋との相違こそあれ、所詮は予と同心に極まったぞ。」

「これはまた滅相な。成程御姫様の御美しさは、伎芸天女も及ばぬほどではございますが、恋は恋、釈教は釈教、まして好物の御酒などと、一つ際には申せませぬ。」

「そう思うのはその方の心が狭いからの事じゃ。弥陀も女人も、予の前には、皆われらの悲しさを忘れさせる傀儡の類いにほかならぬ。――」

こう若殿様が御云い張りになると、急に御姫様は偸むように、ちらりとその方を御覧になりながら、

「それでも女子が傀儡では、嫌じゃと申しは致しませぬか。」と、小さな御声で仰有いました。

「傀儡で悪くば、仏菩薩とも申そうか。」

若殿様は勢いよく、こう返事をなさいましたが、ふと何か御思い出しなすったように、じっと大殿油の火影を御覧になると、

「昔、あの菅原雅平と親ゅう交っていた頃にも、度々このような議論を闘わせた。御身も知って居られようが、雅平は予と違って、一図に信を起し易い、云わば朴直な生れがらじゃ。