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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

「融の左大臣は、風月の才に富んで居られたと申すではないか。されば父上づれは、話のあとを打たせるにも足らぬと思われて、消え失せられたに相違ない。」と、仰有ったのを覚えて居ります。

それがまた大殿様には、何よりも御耳に痛かったと見えまして、ふとした拍子に、こう云う若殿様の御言葉が、御聞きに達する事でもございますと、上べは苦笑いに御紛わしなすっても、御心中の御怒りはありありと御顔に読まれました。現に内裡の梅見の宴からの御帰りに、大殿様の御車の牛がそれて、往来の老人に怪我させた時、その老人が反って手を合せて、権者のような大殿様の御牛にかけられた冥加のほどを、難有がった事がございましたが、その時も若殿様は、大殿様のいらっしゃる前で、牛飼いの童子に御向いなさりながら、「その方はうつけものじゃな。所詮牛をそらすくらいならば、なぜ車の輪にかけて、あの下司を轢き殺さぬ。怪我をしてさえ、手を合せて、随喜するほどの老爺じゃ。轍の下に往生を遂げたら、聖衆の来迎を受けたにも増して、難有く心得たに相違ない。されば父上の御名誉も、一段と挙がろうものを。さりとは心がけの悪い奴じゃ。