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こうがいせいかつのいちねん
郊外生活の一年
岡本 綺堂
大久保にて
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,728 字 · 8 页
薄むらさきの小さい花が一つにかたまって、青い大きい葉の蔭から雲のようにたなびき出でているのを遠く眺めると、さながら松のあいだから桜を望むようにも感じられる。世間一般からはあまりに高く評価されない花ではあるが、ここへ来てから私はこの紫苑がひどく好きになった。どこへ行っても、わたしは紫苑を栽えたいと思っている。
唐蜀黍もよく熟したが、その当時わたしは胃腸を害していたので、それを焼く煙をただながめているばかりであった。糸瓜も大きいのが七、八本ぶら下って、そのなかには二尺を越えたのもあった。
郊外の冬はあわれである。山里は冬ぞ寂しさまさりけり――まさかにそれほどでもないが、庭のかれ芒が木がらしを恐れるようになると、再びかの荒凉索莫がくり返されて、宵々ごとに一種の霜気が屋を圧して来る。朝々ごとに庭の霜柱が深くなる。晴れた日にも珍しい小鳥が囀ずって来ない。戸山が原は青い衣をはがれて、古木もその葉をふるい落すと、わずかに生き残った枯れ草が北風と砂煙に悼ましく咽んで、かの科学研究所の煉瓦や製菓会社の煙突が再び眼立って来る。夜は火の廻りの柝の音が絶えずきこえて、霜に吠える家々の犬の声が嶮しくなる。