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へや

部屋

宮本 百合子

「文芸春秋」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,792 字 · 10 页

青空文庫

部屋

宮本百合子

一

二階受持のさをが、障子の陰から半分顔を出し、小さい声で囁いた。

「一寸、百代さん、来て御覧なさい」

机に向って宿題をしていた百代は、子供らしく下からさをを見上げた。

「なあに」

さをは、障子紙に銀杏返しの鬢を擦る程首を廻して玄関の方へ気を配りながら繰返した。

「――まあ来て御覧なさい」

「どうしたの、何(なん)か来たの?」

さをは電話室の傍迄百代をつれて来ると、前に立っている彼女の肩を押え、

「ここから見て御覧なさい」

と体を電話室の裏にかくさせた。そこは、二階へ登る階子段下で、一目に玄関の全景が見える場所であった。百代は、後に立っているさをの袂を確り捉えながら、そーっと広い三和土の方を覘(うかが)った。と、彼女は急に息をつめたような表情をして、くるりとさをの方へ振向いた。

「――鈴木じゃない?」

「――そうでしょう? どうもそうらしいと思ったんですよ。私も。…………」

二人は改めて頭を重ね、熱心に玄関を覗いた。覗きながら、百代は訊いた。

「――家へ来るのかしら」

「西洋人の方らしゅうござんすよ」

玄関では両親が出て応待していた。