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へや

部屋

宮本 百合子

「文芸春秋」1926(大正15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,792 字 · 10 页

青空文庫

「本当だって云えば」

いねは、軽く娘をあしらった。

「だって――、かあさん――何だか嘘みたいだわ私……」

「変な子だこと……何もそんな気を揉むにゃ及ばないじゃあないか――そりゃそうと宿題は? もういいのかい?」

百代は、一とびに机の前に戻った。彼女はとても、もう英語の単語を二十、発音記号に書きなおすというような仕事を丹念にはつづけていられなくなった。勉強するふりをしながら、百代は夢中になって仲よしで唱歌気違いの道子に報告の手紙を書き出した。

二

ラオロの引越して来るという火曜日は生憎六時間授業の日であった。甲賀町の停留場から家までは、百代は脚のつけ根がだるくなる程急いで帰って来た。松田館と瀬戸物の表札をかけた鉄門を入ると、真直階子段の下でさをともう一人の女中が立ち話をしているのが見えた。往来の方を向いていたさをがすぐ百代を見つけ、

「おかえんなさい」

と膝をかがめた。

百代は、ラオロがもう来てしまったかどうか訊きたいのを、やっと堪え、おとなしく靴をぬぎにかかった。母親のいねは、一人娘の彼女が女中と客の噂などするのを聞きつけると、わざわざ出て来て叱るのであった。