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とかいのなかのことう

都会の中の孤島

坂口 安吾

「小説新潮 第七巻第四号」1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,205 字 · 27 页

青空文庫

グズ弁はあまりのフシギさに驚いて、急いでスパナーを拾いあげた。

手にベットリ何かついたものがある。油かな、と思った。よく見ると血だ。スパナーは血まみれだった。

真ッ暗な障子の彼方をすかしてみると、様子が変だった。一足二足ちかづいて、中をみると、乱雑そのものだ。思いきって中へはいってみると、夫婦二人はまさに腐った魚のように目を外へたらして血の海の中に死んでいたのであった。

★

グズ弁はそれからのことは警察の独房で夢のように思いだしていた。

すべてが絶望的だった。こういうことになるなら、なぜあのとき、すぐさま警察へ訴えなかったか。また、ともかくミヤ子を起してともに後事を相談し、しかる後に行動すべきであった。

このときがグズ弁の持ち前の自衛本能が自然に自らを導いてしまったのである。それは兵営で盗まれた官給品をひそかに補充するには有効であったが、こういう大事の始末には、手ぬかりだらけであった。

グズ弁は屋根裏へあがって、自分のオーバーのポケットを探した。自分のスパナーはどのポケットにもなかった。洋服のポケットも、屋根裏の隅から隅までも、さがした。