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とかいのゆうき
都会の幽気
豊島 与志雄
「サンデー毎日」1924(大正13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,559 字 · 21 页
宙に浮いてだらりと下っている。ふと顔を挙げて見ると、其処には何にもなくて、障子の上の鴨居よりは一尺ばかり高く、床の間の落掛が、白々とした柾目を見せてるばかりだった。天井板や柱や鴨居など、室の中の他の木口よりは比較的新しく見える、その落掛の木目から眼を滑らして、床の間の呉竹の軸物を眺め、次にまた書物の文字に見入ったが、暫くするとまたしても、右手の上の方が気になり初めた。其処に何やらぼんやり下っている。見ると何にも眼にはつかない。
そういうことを繰返してるうちに、私は妙に自分の室へも落付くことが出来なくなった。その上怪しい夢をみた。――形態の知れぬ物象が入り乱れた中から、次第に一の姿がはっきり浮び出してきた。頭髪の有様も顔も表情も着物の縞柄も、何一つはっきり見分けられはしなかったが、明かにそれは一人の若い学生だった。床の間の上に机を置き、その上に乗り背伸びをして、落掛の上の所の壁に、鉄の火箸でぐりぐりと穴をあけている。変なことをする奴だなと思って見てると、彼はやがて指先くらいの大きさの穴をあけてしまい、何処から取出してきたか、二尺余りの麻縄を穴に通し、落掛のすぐ下で輪に結び、その中に首を差入れた。