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とかいのゆうき

都会の幽気

豊島 与志雄

「サンデー毎日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,559 字 · 21 页

青空文庫

振返ってみると誰もいない。真直に歩いていると、また誰かが風のようについて来る。殊に雨のしとしと降る晩なぞは、其奴が雨傘の中にはいって来て、すぐ側に後髪のあたりにくっついて来る。ぞーっとする気持を無理に抑えて、煙草に火でもつけると、もう何処かへ消えて無くなってしまう。

そのうちに、私は次第にそれに馴れてきて、いろんな理由を推測し初めた。よく考えてみると、私がそれに出逢うのは、何か或る一つのことに熱中した後で、さまざまの雑念が消え失せ、思いが一つの点に集中して、疲れながらもじっと落付いている、我を忘れた而も敏感な状態に在る時だった。それで、空気の静かに淀んでいる夜更けの通りを、ふらふらと歩いてゆくと、丁度船の通った後の海上に船足の波が立つと同じく、私の後に空気の波が立って、それを私は誰かの気配だと感じたのだろう。……そう思うと、私はいくらか馬鹿馬鹿しいような安堵を覚えて、余りそれを気にすまいと努め、また実際大して気にもかからなかった。またやって来たな……というくらいの気持でいることが出来た。

所が、その気配の方が段々進歩してきた、と云えば変だが、段々はっきりした形を取ってきた。