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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

と宇野が云った、「どうかあの者にはお気をつけになって下さい」

「なにが心配なんだ」

「これまでにも申上げようと思ったのですが、私が注意していますと、あの乞食はほかの通行人には眼もくれず、あなたお一人だけに袖乞いをするのです」

「それでこのまえ、番たびではくせになる、などと云ったのか」

「私はありのままを申上げたのです」と宇野はまじめな口ぶりで云った、「お笑いになるかもしれませんが、御用心なさるにこしたことはないと思います」

「笑いはしないさ」功兵衛はあるきだしながら云った、「気をつけることにするよ」

靱町へゆくと、越川斎宮は独りで酒を飲んでいた。給仕には妻女が坐っていて、功兵衛のためにすぐ膳の支度をしようとしたが、御用で伺ったのだからと、彼はかたく辞退した。おれは保養ちゅうの身だ、御用の話などは聞かぬぞ、と斎宮は云った。

「しかしぜひとも御意見をうかがわなければならない事ができたのです」功兵衛はあとへひかなかった、「――それに御保養ちゅうとのお言葉ですが、酒をめしあがれるくらいなら」

斎宮は殆んど喚くように遮った、「ばかなことを云うな、おれはおよそ十三歳から酒を飲み始め、それ以来こんにちまで、病気で寝ているときでさえ酒をやめたことはないんだ」