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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

功兵衛は相手の言葉をよく考えてみたのち、ゆっくりと首を左右に振った。

「おれに近よるな」と彼は云った、「おまえはもう死んだ人間なんだ」

「あたしは酒がきれて苦しいんです、五十文か百文あればいいんです」と乞食は云った、「あたしはいま酒を飲むためなら、どんなことでもするつもりです、ようござんすか、どんなことでもですよ」

そこは保利橋のちょっと手前で、右側には炭薪商、籠屋、桶屋などが軒を列ね、左側には八百屋、魚屋、繩蓆屋、石屋などが認められた。新町の地はずれであり、それらはみな小さな店だったから、濃いたそがれの色に包まれたその眺めは、救いようもなく落魄した人間たちの、嘆きと溜息の声を聞くように感じられた。功兵衛は銭袋から幾らかの銭を取り出し、乞食の手に渡してやると、なにも云わずにその場を去った。

「有難うございました」とうしろで乞食の云うのが聞えた、「またいつかお願い申しますよ」

功兵衛は戸惑い、うろたえていた。これまでけんめいに築きあげてきて、もはや不動であり安全だと信じていた地位が、突然ぐらぐらと揺れだしたのだ。いや、そんなことはない、おれには世間から非難されるような、ごまかしや不正や、うしろぐらい事はなに一つない。