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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

「本当の望みはなんだ」と彼は問いかけた、「なにをめあてに帰って来たんだ」

「お酒を飲まして下さい、あたしは本当に死にそうなんです」女の声は悲鳴のようであった、「酒を飲むためなら、どんなことでもすると云ったでしょ、ここであなたの妻だと、叫びだしてもいいんですよ」

「それを人が信用すると思うか」

「評判にはなるでしょう、そして」と女はそこで昂然と額をあげた、「誰かが、あたしの墓を掘り返すかもしれない、墓を掘ってみろと、あたしから云ってもいいんです、ほんとうにはあたしの云うことを誰も信じないかもしれない、墓を掘ってみるようなこともやらないかもしれない、けれども、世間はそんな評判が好きですからね、ありそうもない評判ほど好きなんだから、そうでしょ」

功兵衛はちょっとまをおいて、「いっしょに来い」と云い、橋のたもとを右のほうへあるきだした。

「あたしを殺そうっていうんですか」女は功兵衛の袖に縋りついたまま、ひょろひょろとあるきながら笑った、「いいでしょ、あたしを殺したかったら殺しなさい、けれどもね、あたしには吾平という者がいるんですよ、お忘れじゃないでしょうね、お屋敷に雇われていた吾平ですよ」