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しゅうぶん
醜聞
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页
四
「この袖を放せ」
「もしもあたしが帰らなければ、吾平が訴えて出ることになってるんだ」さくらは嘲笑するように云い、掴んでいる功兵衛の袖を、放されまいとしてもっと強く掴んだ、「さあ、それを覚悟のうえで、殺したければさっさと殺しなさいよ」
喉までこみあげてくる憎悪と怒りを、功兵衛はけんめいに抑えた。彼は立停って、女のほうへ振り向いた。
四
おれはばかなことをしたのだろうか、と功兵衛は自問した。これでますます深みにはまり、あの女の好きなように振り廻されるのではないか。いや、と彼は自分に云い返した。ごまかしはいけない、正面からぶっつかるんだ、さくらがなんのために帰って来たのか、どんな目的があるのか、それをはっきり慥かめるんだ、と彼は思った。
あの雪のたそがれの中で、彼は女に金を与え、それで衣類をととのえ、まともな姿になって「さのや」へ来いと云った。さのやは柳町にある料亭で、離れ座敷が三つあり、そこならば人に気兼ねなく話ができるからであった。――初めて降った雪は、根雪にならずに消えてしまい、二日めの今日はもう道もぬかってはいなかった。下城の刻がきたとき、役所の助席の寺田庄司が近よって来て、勘定吟味役はいつ代ったのか、と問いかけた。