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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

みちづれにできるなら、あたしたちはよろこんでお仕置を受けますよ、ええ、――それを忘れないようにするんだね」

功兵衛は廊下へ出てから女中を呼び、勘定を済ませて、いいじぶんに女を帰らせるようにとたのんだ。

彼は膳のものには箸をつけなかった。しかし空腹な感じは少しもなかった。食事は済ませてくると云い置いたので、帰宅しても食事の用意はしてないだろう。「さのや」から出たとき、ちょっとそう思ったが、空腹だからではなかった。密通し、出奔したさくらが、八年もたって戻って来て、金をよこせと脅迫するあくどさ、金を呉れなければ仕置を承知のうえ名のって出る、そうなれば幾人かの犠牲者がでる、というところまで計算された脅迫。世の中にはもっと恥知らずで、無法なことをする者がいるかもしれない。さくらのやりかたがそれらよりもっとずぶとく、悪辣で卑劣なものだ。功兵衛はもちろん激しい怒りにおそわれた、その怒りはたとえようもないものだったが、それよりもさらに深いところで、たじろぎ戸惑っている自分を彼は感じていた。

――人に見せられない痣か瘤がある、それを人に感づかせまいとして、つねにかみしもを着け、膝も崩そうとはしない、寝ても起きても人間ではなく、いつも侍であるという面目だけを守っている。