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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

六

いまは悪阻がいちばんつよい時期らしいから、劬ってあげるようにとも云った。彼は妻の寝間へいってみた。例のないことなので、ふじはいそいで起き直ろうとしたが、彼は手まねでそれを制止し、妻の夜具の脇へ坐った。

「気をつかわないでいい」功兵衛は微笑しながらやさしい口ぶりで云った、「――なんでも自分の好きなようにして、丈夫ないい子を産むことだ、功刀家の初めての子だからな」

ふじはべそをかくように頬笑み、うれしそうに枕の上で頷いた。

六

その夜半からまた雪になったらしい。功兵衛が起きたときには、庭も隣り屋敷も、五寸あまりの雪に掩われて、なおこまかい乾いた雪が降りしきっていた。彼は起きるとすぐに妻をみまった。家扶の妻女がふじに食事をさせているところで、彼の姿を見ると二人ともびっくりした。妻の寝間をおとずれるなどということは初めてであり、二人のおどろいたようすにそれがはっきりあらわれていた。

「そのままでいい」功兵衛は手を振りながら云った、「今日は早く帰って来るよ」

家扶の妻女が口をあき、眼をみはっていたことが、功兵衛の印象につよく残った。

彼は二十両を紙に包んで登城し、供はすぐに帰らせた。