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しゅうぶん
醜聞
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页
ふじの顔が歪み、いまにも泣きだしそうにみえた。功兵衛は「起こして悪かった、さあおやすみ」と云ってその寝間から出た。
――あんな単純な劬りにさえ、泣きそうになるほどふじは感動した。
おれはそんなにもつめたく、形式ばった人間だったのだろうか。功兵衛は寝てからも、ながいこと自分の過去を思い返してみた。たとえ侍でも人間らしい人間なら、ときには家名や体面をけがすようなことに、巻き込まれる場合があるかもしれない。醜聞のひろまることを恐れて、ただ問題を闇に葬ろうとするのと、人間としてその問題に正面から対決するのと、どちらが正しく勇気のいることだろうか。
「苅田壮平のためになにかしよう」と功兵衛は呟いた、「罰するだけが裁きではないからな、明日は靱町へいって相談しよう」
すると越川中老の毒舌が聞えるように思えた。――いまになってなにを云いだすんだ、苅田というやつは赤ん坊に足がらをかけて投げとばすようなまねをしたんだぞ、断じて許すことはできない、だめだ。そこで功兵衛は空想のなかでくいさがるだろう、――あんな男でもいつかは死病にとりつかれ、苦しみながら死ぬんだと思えば哀れだと考えられませんか。