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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
いるのではあるまいか。そんな気がしてならない」
音七もうなずいて、
「今日で丸二年、こうして海を流れている。いかに海が広いとはいっても、七百日の間、帆影一つ島影一つ見ずにしまうなどということがあるものだろうか。どう考えても、なにかの祟りだとしか思えないではないか。仲間に義理立てをするのもいいが、穢れを背負いこんで、着ける浜にも得着けぬというのでは情けない。死んだものたちも、ここまでの世話をしてもらったうえのことだから、海へ流されたからとて、怨むこともあるまいと思うが」
この半年の間、重吉は雑倉のつづきの座敷で寝起きし、朝夕、腐肉の臭いをかいでいたが、あわれとこそ思え、ただの一度も、穢らわしいなどと考えたことがなかった。もし祟りを受けているなら、天水や魚の糧の恵みにあうこともなく、とうのむかしに船を沈められ、海の藻屑になっているはずだと思ったが、こんなことで争ってもしようがないから、二人のいうようにすることにきめ、雑倉の板扉の前へ行って、
「さて、おぬしたちはみな成仏したことだから、わしの言うことを、仏の心でおだやかに聞いてくれるだろう。おぬしたちの亡骸のことだが、こうしていてもいつ陸地へ着くという当てもない。