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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:奈々子、隣の嫁、春の潮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 页

青空文庫

おとッつさんの言う事にちっとも御無理はないんだから、どうにかしておとッつさんの機嫌を直したい、わたしは……」

「そりゃ私だっておとよさんの苦心は充分察してるのさ」

省作はお千代とおとよの顔を見比べて、

「お千代さん、おとよさんは少し元のおとよさんと違ってきたね」

「どう違うの」

「元はもっと、きっぱりとしていて、今のように苦労性でなかったよ。近頃はばかに気が弱くなった、おとよさんは」

おとよは、長くはっきりした目に笑みを湛えてわきを見ている。

「それも省さんがあんまりおとよさんに苦労さしたからさ」

「そんな事はねい、私はいつでもおとよさんの言いなりだもの」

「まあ憎らしい、あんなこといって」

「そんなら省さん、なで深田へ養子にいった」

お千代はこう言ってハヽヽヽヽと笑う。

「それもおとよさんが行けって言ったからさ」

「もうやめだやめだ、こんなこといってると、鴨に笑われる。おとよさん省さん、さあさあ蛇王様へ詣ってきましょう」

三人はばたばた外へ出る。池の北側の小路を渚について七、八町廻れば養安寺村である。追いつ追われつ、草花を採ったり小石を拾って投げたり、蛇がいたと言っては三人がしがみ合ったりして、池の岸を廻ってゆく。