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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:奈々子、隣の嫁、春の潮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,271 字 · 144 页

青空文庫

こう独言を言いつつ省作は感に堪えなくなって、起って座敷じゅうをうろうろ歩きをするのである。省作はもう腹の中の一切のとどこおりがとれてしまって、胸はちゃんと定まった。胸が定まれば元気はおのずから動く。

翌朝省作は起こされずに早く起きた。

「おッ母さん仕事着は」

とどなる。

「ウム省作起きたか」

「あ、おッ母さん、もう働くよ」

「ウムどうぞま、そうしてくろや。お前に浮かぬ顔して引っ込んでいられると、おらな寿命が縮まるようだったわ」

中しきりの鏡戸に、ずんずん足音響かせてはや仕事着の兄がやってきた。

「ウン起きたか省作、えい加減にして土竜の芸当はやめろい。今日はな、種井を浚うから手伝え。くよくよするない、男らしくもねい」

兄のことばの終わらぬうちに省作は素足で庭へ飛び降りた。

彼岸がくれば籾種を種井の池に浸す。種浸す前に必ず種井の水を汲みほして掃除をせねばならぬ。これはほとんどこの地の習慣で、一つの年中行事になってる。二月に入ればよい日を見て種井浚いをやる。その夜は茶飯ぐらいこしらえて酒の一升も買うときまってる。

今日は珍しくおはま満蔵と兄と四人手揃いで働いたから、家じゅう愉快に働いた。