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はまぎく

野菊の墓

伊藤 左千夫

伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:浜菊、守の家。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,907 字 · 29 页

青空文庫

「君茶がさめるからやってくれ給え。オイ早く持ってこないか」

家中静かで返辞の声もない。岡村は便所へでもゆくのか、立って奥へ這入って行った。挨拶などは固よりお流れである。考えて見ると成程一昨年来た時も、其前に来た時も改まった挨拶などはしなかった様に覚えてるが、しかしながら今は岡村も慥か三十以上だ。予は四十に近い。然も互いに妻子を持てる一ぱしの人間であるのに、磊落と云えば磊落とも云えるが、岡村は決して磊落な質の男ではない。それにしても岡村の家は立派な士族で、此地にあっても上流の地位に居ると聞いてる。こんな調子で土地の者とも交際して居るのかしらなど考える。百里遠来同好の友を訪ねて、早く退屈を感じたる予は、余りの手持無沙汰に、袂を探って好きもせぬ巻煙草に火をつけた。菓子か何か持って出てきた岡村は、

「近頃君も煙草をやるのか、君は煙草をやらぬ様に思っていた」

「ウンやるんじゃない板面なのさ。そりゃそうと君も次が又出来たそうね、然も男子じゃ目出たいじゃないか」

「や有難う。あの時は又念入りの御手紙ありがとう」

「人間の変化は早いものなア。人の生涯も或階段へ踏みかけると、躊躇なく進行するから驚くよ。