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のぎくのはか

野菊の墓

伊藤 左千夫

「ホトトギス」1906(明治39)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页

青空文庫

僕は初め無造作に民さんと呼んだけれど、跡は無造作に詞が継がない。おかしく喉がつまって声が出ない。民子は茄子を一つ手に持ちながら体を起して、

「政夫さん、なに……」

「何でもないけど民さんは近頃へんだからさ。僕なんかすっかり嫌いになったようだもの」

民子はさすがに女性で、そういうことには僕などより遙に神経が鋭敏になっている。さも口惜しそうな顔して、つと僕の側へ寄ってきた。

「政夫さんはあんまりだわ。私がいつ政夫さんに隔てをしました……」

「何さ、この頃民さんは、すっかり変っちまって、僕なんかに用はないらしいからよ。それだって民さんに不足を云う訣ではないよ」

民子はせきこんで、

「そんな事いうはそりゃ政夫さんひどいわ、御無理だわ。この間は二人を並べて置いて、お母さんにあんなに叱られたじゃありませんか。あなたは男ですから平気でお出でだけど、私は年は多いし女ですもの、あァ云われては実に面目がないじゃありませんか。それですから、私は一生懸命になってたしなんで居るんでさ。それを政夫さん隔てるの嫌になったろうのと云うんだもの、私はほんとにつまらない……」

民子は泣き出しそうな顔つきで僕の顔をじいッと視ている。