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きんごじゅうりょう

金五十両

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,843 字 · 23 页

青空文庫

「あたしも気がつかなかったわね」

そんなことを云い合っているところへ、お滝という女中がしらが来て、

「なにかあったのかえ」と口をはさんだ。

それまで離屋の客に付いていて、知らなかったのである。話を聞くといつもの癖のふんと鼻を鳴らせて、お膳は持ってったのかと訊いた。

「気がつかないけれど、まだでしょう」

「それで手を鳴らさなかったのね」

お滝はちょっと眉をひそめたが、

「……いいよ、あたしが後でなんとかするから、お時さんおまえお膳だけでも持ってっといてお呉れ、お酒を一本つけてね」

こう云ってまた離屋へ去った。

受持の客を送りだしたのが九時過ぎ、ちょっと鏡を覗いてから、酒をもう一本持ってお滝はその部屋へいった。

……客は二十五六の痩せた貧相な男だった、木綿縞の着物も角帯もしおたれているし、開けてない両掛が投出してあるところをみると、着替えはもちろんろくな持物はないらしい、血色の悪い顔に眼ばかり神経質な光りを帯びていた。

「お愛相がなくって済みませんでした、熱いのを一つどうぞ」

お滝はこう云いながら膳の脇に坐った。

「まえには旅籠をしていたんですが、二三年あとからこんな風に変ったんですよ、気を悪くなすったでしょうが堪忍して下さいましね」