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きんごじゅうりょう

金五十両

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,843 字 · 23 页

青空文庫

三

十年かかって溜めた金は、こうしてあぶくのように消えちゃった、己は帰りに大川へでもとび込んで死んじまおうかと思い、浜町河岸を往ったり来たり、灯のつくじぶんまでうろつきまわっていた、もちろん死にあしなかった、と云うのはそのとき……夫婦約束をした相手があったからだ」

宗吉は微かに身震いをした。

その太物問屋に、おたまという娘がいた。宗吉と四つ違いで、縹緻もよく才はじけた早熟な子だった、奉公にはいった始めから好んで彼を遊び相手に選び、芝居見物の供などにも彼だけは欠かさず伴れてゆくという風だったが、宗吉が十八のとき奥土蔵の中で、彼女のほうから求めて夫婦約束をした。

「これから二人っきりのときはおたまと呼捨てにしてお呉れ」

などと指切をしたり、

「お父っさんがあんな気性だから許して貰えないかも知れない、そうしたら二人で駆落をしてもきっと夫婦になろう」

熱い息づかいでそんな事を囁き合ったりした。

三

「己は娘に打明けたものかどうか迷った、おめでたいはなしだがその金が無いといざというとき駆落もできなくなる、さぞ向うはがっかりするだろうと思ったんだ、よし死に身になって稼いでやろう、年期が明ければ月づき定った手当が貰えるし、うまく外廻りになれば売上げの分も入る、ひとの十倍はたらく気でやってみよう、こう決心した」