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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

11 影人形

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,251 字 · 39 页

青空文庫

近くの紀伊の国橋のはし桁を鳴らして、重い荷を積んだ大八車の通り過ぎて行く音が、どうかするとかみなりのように大きく長く、つづいていた。

銀兵衛が立ち去って行くと、藤吉は、席主の幸七と葬式彦兵衛を伴れて、高座の上り口近い、はだか蝋燭の立っている戸のそばまで、引っ返した。

戸の隙間から高座を覗くと、列なって踊っている女たちのうしろ姿が見える。

藤吉は、何か言おうとして幸七をふりかえったが、その時、右隣の、出番の近い芸人たちが待ち合わせることになっている小部屋に、文楽のような、人形師紋之助の操り屋台が置いてあるそのそばに、ひそひそ心配そうに話し合って、話し家の円枝と、紋之助の三味のおこよとが、しょんぼり立っているのが藤吉の眼にはいった。

おこよは、生え際の美しい、眼のぱっちりした、まだ娘むすめした顔である。

二人とも、藤吉の視線を受けて、何も言わない先に、昂奮して蒼くなっている額を持って来た。

こわごわ藤吉のほうへ屈んで、円枝が、

「武右衛門さんに、変り事があったようでげすが、べつにたいしたことは――。」

狭い咽喉を出るような、かすれた低声だ。いつも高座で人を笑わせているところばかりを見ているだけに、またおどけたことを吐くのが稼業で、地の奇妙な顔が身上になっているので、この男がこうして真面目なのは、なんとも不気味