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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
13 宙に浮く屍骸
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,907 字 · 32 页
あわただしい急足が合点小路へ駈け込んで来て、頭天のてっぺんから噴き出すような声が、勘弁勘次の耳を打った。
「たっ、た、大変だ、大変だ! おっ、親分在宿かえ。」
二
江戸っ児のなかでも気の早い、いなせな渡世の寄り合っている八丁堀合点小路の奥の一棟――そのころ八丁堀合点長屋の釘抜藤吉といえば、広い八百八町にも二人と肩を並べる者のない凄腕の目明しであった。さる御家人の次男坊と生れた彼は、お定まりどおり、放蕩に身を持ち崩したあげくの果てが、七世までの勘当となり、しばらく草鞋を穿いて雲水の托鉢僧と洒落のめし日本全国津々浦々を放浪していたが、やがてお江戸へ舞い戻って気負いの群からあたまを擡げ、今では押しも押されもしない十手捕繩の大親分――朱総仲間の日の下開山とまでなっているのであった。脚が釘抜のように曲がっているところから、釘抜藤吉という異名を取っていたが、じっさいその顔のどこかに釘抜のような正確な、執拗な力強さが現れていた。小柄な、貧弱な体格の所有主であったが、腕にだけ不思議な金剛力があって、柱の釘をぐいと引いて抜くという江戸中一般の取り沙汰であった。