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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

04 槍祭夏の夜話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,085 字 · 21 页

青空文庫

夕陽を避けて壁際に大の字形に仰臥した藤吉、傍に畏る葬式彦と緒に、いささか出鼻を挫かれた心持ちで、に組の頭常吉の言葉に先刻から耳を傾けている。

家路を急ぐ鳥追いの破れ三味線、早い夕餉の支度でもあろうか、くさや焼く香がどこからともなく漂っていた。

三川島の浄正寺門前、田圃の中の俗に言う竹屋敷に卍の富五郎が女房と一緒に潜んでいることを嗅ぎ出したのが浅草馬道の目明し影法師の三吉、昨夜子の刻から丑へかけて、足拵えも厳重に同勢七人、鬨を作って踏み込んだまではいいが、奥の一間に、富五郎の屍骸に折り重なってよよとばかりに哭き崩れる女房を見出しては、さすがに気の立った三吉一味もこのところ尠からず拍子抜けの体だったという。

実もって容易ならぬ常吉の又聞き話。三吉が捕方に向う六時も前、午過ぎの九つ半に、富五郎は卒中ですでに鬼籍に入っていたのだとのこと。その十畳には死人の首途が早や万端調って、三吉が御用の声もろとも襖を蹴倒した時には、線香の煙りが縷々として流れるなかに、女房一人が身も世もなく涙に咽んでいるばかり、肝心の富五郎は氷のように冷く石のように固くなって、北を枕に息を引き取った後だった。