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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
09 怨霊首人形
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,598 字 · 26 页
「やっ! 梅干の種だ!」
這うようになおも辺りを見れば、飯粒の乾枯びたの、鰹節の破片などが、染甕の内外に、些少だが散らばっている。釘抜藤吉、突然上を向いて狂人のように笑い出した。と、
「親分、ちょっくら!」
入口の勘次、声を忍ばせた。はっとした藤吉、あわてて笑いを引っ込めると、扉の蔭に駈け寄って勘次の肩越し、戸外を窺った。
人眼が怖いか裏口から、横町へ抜ける細道伝いに娘お糸が今しも自家を出るところ、町家にしては伊達者めいた艶姿、さすが小町の名を取っただけ、容色着付の好み、遠眼ながら水際立って見えた。勘次はあんぐり口を開けて、
「好い女子だなあ――勘弁ならねえ。」
と独言つその背中を、そっと突いた藤吉、
「勘、尾けろ。」
「へ? 彼娘を?」
「そうよ。とちるめえぞ。」
「へっへ、言うにや及ぶ。糸桜、てんだ。」
「なにをっ?」
「糸ざくら蕾も雨に濡れにけり、かな。」
「ちゃんちゃらおかしいや。抜かるな。」
「合点承知之助。」
勘弁勘次、影のようにお糸の跡を踏んだ。
合点長屋へ帰ろうとして、藤吉がふと見ると、縁起直しのつもりであろう、弥吉と小僧が尻をからげて、清水で桔梗屋の前構えをせっせと洗っていた。