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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
01 のの字の刀痕
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,145 字 · 19 页
後を追って助三郎が格子へ手を掛けた時、雨に濡れた冷たい刃物が彼の脾腹を刳った。一切の物音は豪雨が消していた。それから後の姦夫姦婦の行動は釘抜藤吉の推量と符節を合わすように一致していて、時の奉行も今さら藤吉の推理力に舌を巻いたのであった。
安政四年十二月白洲に於て申渡し左の通り
馬道無宿 栄太 三十六歳
其方儀弟妻阿銀と密通致し其上阿銀の悪事に荷担致し候段重々不届に付町中引廻しの上浅草に於て獄門申付くる事
竜泉寺町 ぎん 二十四歳
其方儀夫兄栄太と密通致し其上夫助三郎を殺害候段重々不届に付町中引過しの上浅草に於て獄門申付くる事
竜泉寺町家持差配 伊勢屋源兵衛
其方儀不埒の筋も無之付構いなき事
上に黄八丈下に白無垢二つを重ねて本繩を打たれ、襟には水晶の数珠を掛け、口に法華経普門品を唱えながら馬に揺られたお銀の姿が、栄太と共に江戸町を引き廻された埃りっぽい日の正午下り、八丁堀の合点長屋へ切れようとする角の海老床で、釘抜藤吉は勘次を相手に飛車や王手と余念がなかった。
のどかな煙草の輪を吹きながら、藤吉は持駒で盤を叩いていた。
「え、こう、勘。