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どん・こん・ろく
鈍・根・録
宮本 百合子
「改造」1934(昭和9)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,159 字 · 9 页
それらも、やはりこの前後に、手にとることは出来ない新聞の上で見た。チェホフ全集が出ると知った時、自分はチェホフがその手紙の中で、小商人の伜として育った自分はいくじなく頭を下げる癖を克服するだけにでもどれほど闘ったか知れぬと云う意味のことを書いていたのを計らず思い出した。また、帝政時代のロシア・アカデミーがゴーリキイを一度は会員として決定しておきながら、ゴーリキイが政治的注意人物で、室内監禁をうけたりしたことがわかったら、あわてふためいて決定をとり消したことがあった。その時、そのようなアカデミーであるならば自身が会員であることをも寧ろ屈辱とすると云ってアカデミーをゴーリキイとともに去ったチェホフ。そういうアントン・パヴロウィッチ・チェホフの面を、こんどチェホフ全集発行の任にあたるひとは、現代の状勢にあって、どのように評価しているであろうかとも考えた。日本にも文芸院とかいうものが警保局長の手でこしらえられるというより合いの時の写真を見て、わたしはこのチェホフとアカデミーとの歴史的関係をまざまざと思い起したのであった。
その実際を知ればしるほど非人間的な条件の深刻さがわかるような生活の連鎖の中で、母に対する自分の心持が変化をうけるようなことが起った。