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すずきもんど
鈴木主水
久生 十蘭
「オール讀物」1951(昭和26)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,827 字 · 26 页
いちど懇談して、その折の思いを通じたく存じていたが、中ノ門は固くて忍ぶに忍ばれず、もだもだしていたところ、七月はじめの宿居の夜、ゆくりなく御腰掛の端居で出逢い、積る話をして本意をとげた。そのとき、また逢うまでの思い草に舞扇を預ったが、それこそ秋の扇となりはてて、その後は風の便りもない。今夜、月見の御相伴にあずかり、下座にいてお糸の方の踊を拝見していたが、あまりの白々しさに腹がたち、我を忘れて尾籠なことを口走ったという次第を述べ、言い終ってまた平伏した。
播磨守の顔色が変ったようにみえたが、すぐ、ひょうげた顔になってお糸の方のほうへふりかえった。
「聞いたか。また逢うまでの思い草に、そちから扇を貰ったと言っている」
「聞きました」
「町方にいるとき、そちと踊の朋輩だったそうな」
「そう申しておりました」
「庭先へ蹴落してくれよう。色呆けて、とりとめなくなったとみえる。その扇であやつの頭を叩いてやれ」
「でも」
「打て、存分に打ち据えろ」
お糸の方は顔を俯向けていたが、崩れるように畳の上に両手をついた。
「申訳ございません」
そういうと、曙染めの小袖の袂に顔をおしあてて泣きだした。