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てつのきりつ

鉄の規律

平林 初之輔

「新青年 第一二巻第一〇号」1931(昭和6)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,016 字 · 30 页

青空文庫

ていました。ガソリンもなくなってはいないし、タイヤにも別条はないので、変だと思って色々しらべていますと、お巡りさんが、こちらを睨んでは、早くしろと催促されますので、なおさらいらいらして、故障の箇所がわかりませんでした。そのうちに突然お巡りさんは、(何しろあそこは、虎の門と半蔵門と日比谷との三つの電車の交叉点ですから、無理もないのですが)もどかしくなって疳癪を起こされたと見えて、いきなり『こらっ』と怒鳴られたもんですから、吃驚して運転手台にのぼって、ハンドルをもつと、不思議にも車は動き出すんです。そこで、ぐずぐずしていてこの上お目玉をくっちゃ大変だと思って、スピードを出してかけだしますと、虎の門の方から来た九十六号の自動車と衝突してしまったのでございます。咄嗟のことでどうすることもできませんでした。それからあとのことは、病院へかつぎこまれるまでちっとも気がつきませんでした。私の傷なんか大したことないのですが、先方のお客様と運転手さんとにひどい怪我をさせたことは何とも申し訳がございません。けれど、お客様が、箱の中にいて別に外傷もなしに、咽喉をしめられたり、脳天をひどく打たれたりなさったとすれば、これは誰かが故意にやったことで、車体が大して破損していないことを見ましても、決してただの衝突の結果だとは思われませ