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てつのきりつ
鉄の規律
平林 初之輔
「新青年 第一二巻第一〇号」1931(昭和6)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,016 字 · 30 页
六
六
しかし、それから三日目の朝、この事件を担当していた捜査課の梅田という若い刑事が、課長室へやってきて、罫紙二枚綴りの次のような書類を提出した。
意見書
一、遠山勝男の死が他殺なることは、死体検案および死体解剖の結果によって明らかなり。
二、加害者が大日本正義党の党員なることは、事件直後、総監の許へ同党中央執行委員より送られたる文書によりてほぼ明らかなり。
三、現場に散乱していたビールの空き瓶の一つに毛髪の付着しいたるものあるを発見したるが、顕鏡の結果、この毛髪は被害者の毛髪なること判明せり。
四、この空き瓶はいったん自動車の窓より入りて被害者の頭部にあたり、それからさらに窓より車外にころがりたるものと見做さざるべからず。
五、しかるに自動車の中へは空き瓶の自由に出入することは車体の構造より見て不可能なり。
六、ゆえにこれは何者かが、故意にビール瓶を拾いあげて被害者の頭部に打撃を加えたる後、これをすてたるものとより考えられず。
七、被害者の咽喉部にありしという、しめつけられたるごとき負傷は、自動車の衝突によりて自然に生じたるものとは絶対に信じ難い、車内にてかかる性質の傷を受くる可能性なければなり、これは何者かが、恐らく柔道の心得ある何者かがビール瓶にて頭部に打撃を加えたる後、咽喉をしめつけたるものなり。