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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

……そう云い云い又も一杯傾けて、舌なめずりをしている叔父の横顔には、

……お前が何もかも知っている事を俺もよく知っているのだ。しかし俺はもう何とも云わない。伊奈子はお前の好き自由にしていい……。

という意味の表情が、力なくほのめいていたからであった。……のみならず、その叔父独得の陽気な響きを喪った声の中には、今までにない淋しい……如何にも親身の叔父らしい響さえ籠っていた。そうして、そう思って見れば見るほど、叔父の横顔には、今までの悪魔らしい感じがなくなっているのに気が付いて来た。この夏時分に比べると、驚くほど青白くなっている頬や瞼には、ヨボヨボの老人に見るようなタルミさえ出来ているのであった。

しかし、それかといって今更のように叔父を憐れむ気には毛頭なれない私であった。すぐに、もとの私に帰ると同時に、一種の冷たい微笑が湧いて来るのを押え付けながら、トボトボと店を出て行く叔父を見送って、平生よりイクラカ叮嚀に頭を下げただけであった。

……面白いな……まるでお伽噺か何ぞのように、小さな美しい悪魔が、大きな醜い悪魔をやっつけて、只の人間になるまで去勢してしまっている。