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なまりをかじるむし

鉛をかじる虫

寺田 寅彦

「帝国大学新聞」1933(昭和8)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,504 字 · 6 页

青空文庫

とは根本的にちがう。これはいうまでもないことである。しかしそれが全く同じであるとしても、忘れなかった僅少なプロセントがその人にとってはもっとも必要な全部であるかもしれないのである。

世の中に工率百プロセントの器械は一つもない。注ぎ込んだエネルギーの一部は必ず無駄になって消費される。電燈の場合などでも肝心の光になるエネルギーは消費される電力の割合にわずかな小部分で、あとはみんな不必要な熱となって宇宙に放散する。この、物質界に行われる原理を、鉛を食う虫の場合の生理的現象に応用する訳には行かないし、いわんや人間の精神現象に持ち込むべき所由はもとよりない。それにもかかわらず「無駄を伴わない滓を出さない有益なものは一つもない」という言明は、どうも少なくも一つの作業仮説として試みに使ってみてもいいように思われる。この仮説を許容するか、しないかで結果には非常な差を生じる。この仮説が真ならば、無駄をしないようにするには結局有益なことを一つもしないというより外はなくなる。また有益なことをするためには結局なるべく無駄を沢山にするようにしなければならないということにもなるかもしれない。