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『はちのこ』から『ごちゅうあん』まで
『鉢の子』から『其中庵』まで
種田 山頭火
「「三八九」復活第四集」1932(昭和7)年12月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,548 字 · 10 页
緑平老の言葉はあたたかすぎるほどあたたかだった。
こうして其中庵の第一石は置かれたけれど、じっとしていられる身ではない。私はひとまず熊本へ帰ることにした(実をいえば、私には行く方向はあっても帰る場所はないのである)。
冬雨の降る夕であった。私はさんざん濡れて歩いていた。川が一すじ私といっしょに流れていた。ぽとり、そしてまたぽとり、私は冷たい頬を撫でた。笠が漏りだしたのだ。
笠も漏りだしたか
この網代笠は旅に出てから三度目のそれである。雨も風も雪も、そして或る夜は霜もふせいでくれた。世の人のあざけりからも隠してくれた。自棄の危険をも守ってくれた。――その笠が漏りだしたのである。――私はしばらく土手の枯草にたたずんで、涸れてゆく水に見入った。
あなたこなたと歩きつづけて、熊本に着いたのはもう年の暮だった。街は師走の賑やかさであったが、私の寝床はどこにも見出せなかった。
霜夜の寝床が見つからない
これは事実そのままを叙したのであるけれど、気持を述べるならば、
霜夜の寝床がどこかにあらう
となる。じっさい、そういう気持でなければこういう生活が出来るものでない。しかしこれらの事実や気持の奥に、叙するよりも、述べるよりも、詠うべき或物が存在すると思う。