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『はちのこ』から『ごちゅうあん』まで
『鉢の子』から『其中庵』まで
種田 山頭火
「「三八九」復活第四集」1932(昭和7)年12月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,548 字 · 10 页
さらば川棚よ、たいへんお世話になった。私は一生涯川棚を忘れないであろう。川棚よ、さらば。
けふはおわかれの糸瓜がぶらり
私の心は明るいとはいえないまでも重くはなかった。私の行手には小郡があった、そこには樹明兄がいる。そのさきには敬治兄がいる。その近くのA村は水が清くて山がしずかだった。それを私ははっきりと記憶している。
『もし川棚の方がいけないようでしたら、ここにも庵居するに似合な家がないでもありませんよ。』此夏二度目に樹明兄を訪ねてきた時、兄が洩らした会話の一節だった。私はその時はまだ川棚に執着していたので、その深切だけを頂戴した。それが今はその深切の実を頂戴すべく、ひょうぜんとしてやってきたのである。
或る家の裏座敷に取り敢えず落ちついた。鍋、釜、俎板、庖丁、米、炭、等々と自炊の道具が備えられた。
二人でその家を見分に出かけた。山手の里を辿って、その奥の森の傍、夏草が茂りたいだけ茂った中に、草葺の小家があった。久しく風雨に任せてあったので、屋根は漏り壁は落ちていても、そこには私をひきつける何物かがあった。
私はすっかり気に入った。一日も早く移って来たい希望を述べた。