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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
「新青年」1926(大正15)年3月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页
「お前は本当に神の子か?」
「そうだ」とイエスは威厳をもって云った。
「人の子大権の右に坐し、天の雲の中に現われるだろう。お前達はそれを見るだろう」
カヤパの司どる猶太教からすれば、神の子だと自ら称することは、この上もない冒涜であった。その罪は将に死に当たった。
人を死罪に行なうには、羅馬政府の方伯たるピラトに聞かなければならなかった。
サンヒドリンの議員やパリサイ人や、祭司長カヤパは夜の明ける迄、愉快そうにイエスを嬲り物にした。
やがて夜が明けて朝となった。羅馬公庁ピラトの邸へ、カヤパ達はイエスをしょびいて行った。
それは金曜日にあたっていた。おりから逾越の祝日で、往来には群集が漲っていた。家内では男女がはしゃいでいた。
ピラトは思慮のある官吏であった。しかし心が弱かった。
イエス一人を庁内へ呼び、
「お前は猶太の王なのか?」
彼は先ずこう訊いた。
「我国はこの世の国ではない」
これがイエスの返辞であった。
「とにかくお前は王なのか?」
「そうだ」とイエスは威厳をもって云った。
「俺はそのために生れたのだ。……すなわち真理を説くために」
イエスの謂う所の王の意味と、キリストの謂う所の国の意味とを、ピラトはそこで直覚した。