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ぎんさんじゅうまい

銀三十枚

国枝 史郎

「新青年」1926(大正15)年3月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页

青空文庫

私は銀貨を手に取った。厚さ五分に幅一寸、長さ二寸という大きな貨幣で、持ち重りするほど重かった。そうして昨日鋳たかのように、ひどくいい色に輝いていた。

「恐ろしく重いじゃアありませんか」

私は吃驚して佐伯氏に云った。

「ほんとに猶太の古代貨幣は、こんなに恐ろしく重かったのでしょうか?」

「さあ、そいつは解りません。だが日本の天保銭なども、随分大きくて重かったですよ。……紋章が面白いじゃアありませんか」

いかにも面白い紋章であった。

「どうです私の今の話、小説の材料にはなりませんかね」

「ええなりますとも大なりです」

こうは云ったが私としては、そう云われるのは厭であった。大概の人は小説家だと見ると、定まって一つの話をして、そうして書けというからであった。もう鼻に付いていた。

とは云え確かにこの話は、書くだけの値打はあるらしい。偶像破壊、価値転倒、そうして無神論、虚無思想が、色濃く現われているからであった。勿論書くならイスカリオテのユダを、当然主人公にしなければなるまい。

7

「是非お書きなさい、お進めします」

旅行家でもあり蒐集家でもある、佐伯準一郎氏はこう云った。