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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
「新青年」1926(大正15)年3月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页
マリアは深紅の寝巻を着、両股の間へ襞をつくり、寝台の縁へ腰かけていた。
銀三十枚が股の上にあった。
「畜生!」と突然彼女は叫んだ。
「一杯食った! ヤコブ面に!」
三十枚の銀をぶちまけた。
「マリア!」とその時呼ぶ声がした。
「誰!」と彼女は娼婦声で云った。
「解らないのかい。驚いたなあ」
「あら解ってよ。お入んなさい」
彼女の情夫、祭司の長、カヤパが寝室へ入って来た。
「これはこれは」と彼は云った。
「銀の洪水と見えますわい」
「よかったらお前さん持っておいでな」
「気前がいいな。そいつアほんとか?」
カヤパは勿怪な顔をした。
2
イエスと十二人の使徒の上に、春の夜が深く垂れ下っていた。ニサン十三夜の朧月は、棕樹、橄欖、無花果の木々を、銀鼠色に燻らせていた。
肉柱の香、沈丁の香、空気は匂いに充たされていた。
十三人は歩いて行った。
小鳥が塒で騒ぎ出した。その跫音に驚いたのであろう。
と、夜風が吹いて来た。暖かい咽るような夜風であった。ケロデンの渓流、ゲッセマネの園、そっちの方へ流れて行った。エルサレムの方へ流れて行った。
月光は黎明を想わせた。
十三人の顔は白かった。