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ぎんさんじゅうまい

銀三十枚

国枝 史郎

「新青年」1926(大正15)年3月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页

青空文庫

一人で行くのは怖かった。と云うよりも妻の方で、うっそり者のこの私を、一人でやるのが不安だったらしい。

で、自動車へは二人で乗った。

私の両手と彼女の両手とが、革財布を抑えていた。

考え込まざるを得なかった。

「これは何かの間違いなのだ。でなかったら陰謀だ。どうぞ陰謀でないように。俺は問題にならないとしても、聡明らしい佐伯氏が、贋金と白金とを見分けぬはずはない。知っていて俺に借したのだ。しかしあんな猪牙がかりに、借せるような物じゃアないはずだが。金銭に直して幾万円? 箆棒めえ借せられるものか! だが借したのは事実なのだ。……曰くがなけりゃアならないぞ……」

私達のタクシは駛っていた。彼女は物を云わなかった。夜は十二時を過ごしていた。何という町の冬霧だ。とうとうタクシは公園へ来た。その公園を突っ切った。××町まで遣って来た。こんな飛んでもない贋金は、早く早く返さなければならない!

「停めろ!」と私は呶鳴るように云った。

徐行し、そうして停車した。

「どのお家! 佐伯さんのお家は?」

妻が私に呟いた。私は窓から覗いて見た。

「ご覧」と私は唾を飲んだ。

「赤い警察の提燈が、チラツイているあの屋敷だ」