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ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
「新青年」1926(大正15)年3月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,863 字 · 73 页
イエスは如何にも寂しそうに云った。
と、にわかに叫び声を上げた。
「時は近づいた! 遣って来た!」
麓の方を指さした。
山葡萄の茂みに身をひそめ、ユダは様子をうかがっていたが、この時麓を隙かして見た。
打ち重なった木の葉を透し、チラチラ松火の火が見えた。兵士達の持っている松火であった。時々兵士達の兜が見えた。松火の火で輝いていた。剣戟の触れ合う音もした。
「うん、来たな」とユダは云った。
それからその方へ小走って行った。
ユダを認めると兵士達は、足を止めて敬礼した。その先頭にマルコがいた。祭司長カヤパの家来であった。
「マルコ」とユダは近寄って行った。
「接吻が合図だ。間違うなよ」
「大丈夫だ。大丈夫だ」
そこで一隊は歩き出した。傍路からユダは先へ廻った。
「山師なら悲しみ恐れるだろう、預言者なら奇蹟を行なうだろう。……二つに一つだ。面白い芝居だ」
ユダは走りながらワクワクした。
マルコと兵士の一隊は、イエスと使徒との前まで来た。
使徒達はイエスを囲繞いた。
イエスはマルコを凝視したが、その眼は火のように輝いていた。だがその態度はおちついていた。もう顫えてはいなかった。