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さっかくすうだい

錯覚数題

寺田 寅彦

「中央公論」1933(昭和8)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,152 字 · 18 页

青空文庫

いや、見えていたのである。一度気がついてみると、どうしてこんな明白なものが、今まで見えないでいたか、ほとほと不可解に思われるほどにそれほどに明瞭に見えるのである。そうなると、今度は、別の目的でニコルをのぞく時にでも、これがあまりによく見え過ぎて目的とする他の光象を観察する邪魔になるのである。故野口英世博士が狂人の脳髄の中からスピロヘータを検出したときにも、二百個のプレパラートを順々に見て行って百九十何番目かで始めてその存在を認め、それから見直してみると、前に素通りした幾つもの標本にもちゃんと同じもののあるのが見つかった。

ハイディンガーがこの現象を発見してまもなく、ヘルムホルツがこれをたしかめようと思って実験したがどうしても見えなかった。それから十二年後になって、ある日ひょいとニコルをのぞいて見たらただの一ぺんでこれが見つかったそうである。人により、時によりこれの見え方に異同のあるのも事実らしい。

これは眼底網膜の一部が偏光で照らされた時に生じる主観的生理的現象である。「幽霊」などと似たところもあるが、それよりはもう少し普遍的な存在である。

これとは全く縁のないことではあるが、時代思想の「かたより光線」