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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

でしまう。最初私は、自分自身は恐ろしく冷静であって、ただいかにすれば彼をこれ以上悩乱せしめることができようかと、一途にその面白さに惹かれ、彼が今にも発狂しそうに喘ぐさまを意地悪く観察しつつ、自分の技術の巧みさに自分で酔っているのであるが、そうしているうちに、次第に自分も彼と同じように喘ぎ出し、同じように悩乱してしまう。今日も私は、昼間木村と演じた痴戯の一つ一つを、そのままもう一度夫を相手に演じてみせ、彼と木村とがどういう点でどういう風に違うかを味わい分けることに興味を感じていたのであったが、―――そして昼間の相手と比べて、この男の技の拙劣なのに憐愍をさえ催していたのであったが、どういうわけか、そうしているうちに結局私は昼間の場合と同じように興奮してしまった。そして木村を抱き締めたと同じ力でこの男を強く抱き締め、この男の頸に一生懸命しがみ着いた。(ここらが淫婦の淫婦たる所以であると、この男は云うのであろう)私はおよそ何回ぐらい、彼を抱き締め抱き締めしたかは覚えていない、が、私が何分間かの持続の後に一つの行為を成し遂げたとたんに、夫の体がにわかにぐらぐらと弛緩し出して、私の体の上へ崩れ落ちて来た。