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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
という語、「僕ハ僕ヲ、気ガ狂ウホド嫉妬サセテホシイ」、―――「妻ハ随分キワドイ所マデ行ッテヨイ。キワドケレバキワドイホドヨイ」、―――「多少疑イヲ抱カセルクライデアッテモヨイ。ソノクライマデ行ク※(コト、1-2-24)ヲ望ム」という語が出て来るのを読んでから、私は急角度をもって木村のことを考えるようになった。「少クトモ妻ハ、………自分デハ若イ二人ヲ監督シテイルツモリカモ知レナイガ、実際ハ木村ヲ愛シテイルヨウニ思エテナラナイ」と、七日に夫がそんな風に書いているあたりでは、私はむしろ「イヤらしい」というように感じ、いくら夫に嗾けられてもそういう道に外れたことができるものかと、反撥を感じていたのであったが、「キワドケレバキワドイホドヨイ」と云われるに及んで、私の心に急回転が起った。私が意識するより前に、私に木村を好む様子があるのを見て夫が嗾けたのか、嗾けられたので無から有が生じたのか、そこのところはよく分らない。が、私は自分の好奇心が木村の方へ傾いたのを明瞭に意識し出してからも、なおしばらくは、夫のために「心ならず」もそのように「努めて」いるのであると、自らを欺いていた。