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くさりペンをにぎって

鎖ペンを握って

種田 山頭火

――三月十九日 夜――  山頭火

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,609 字 · 4 页

青空文庫

△私は以前から小っぽけな純文芸雑誌発刊の希望を胸ふかく抱いています。機が熟したら、必ず実行します。そして、その一半を俳句の椋鳥会と短歌の白楊社とに捧げたいと思うています。郷土芸術――新しい土に芽生えつつある新らしい草の匂いが、春風のように私の心をそそります。そして私の血は春の潮のように沸き立って来ます。(併し、こんなことはあまり高い声では申されません。地方雑誌の経営ではこれまで、度々失敗していますから。)

△ △ △

△春が来た。春が来たからといって、私には間投詞を並べて、可愛い溜息を洩らすほどの若々しさもなく、また、暗い穴の底へ投り込まれたような鬱憂もないが、矛盾した自己を、やや離れた態度で、冷かに観照しうるだけの皮肉がある。シニカルな気分である。この心持はドストエヴスキーやストリンドベルヒのそれらでなくしてチェーホフのそれに近い。微笑でもない、慟哭でもない、泣笑である。赤でもない、黒でもない、クリーム色である。

△『三十男にも春は嬉しい。』と白泉君が呟く。『嬉しくないこともないね。』と私が答える。『あまり嬉しくはないんですか。』と誰やら若い人が混ぜ返す。