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さこつ
鎖骨
寺田 寅彦
「工業大学蔵前新聞」1933(昭和8)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,945 字 · 6 页
そうして危険になったら脊柱に針を刺して水を取ったりいろいろのことをしなければならないそうである。
自分も小学生時代に学校の玄関のたたきの上で相撲をとって床の上に仰向けに倒され、後頭部をひどく打ったことがある。それから急いで池の岸へ駆けて行って、頭へじゃぶじゃぶ水をかけたまでは覚えていたが、それからあとしばらくの間の記憶が全然空白になってしまった。そうして、今度再び自覚を回復したときは、学校の授業を受けおおせて、いつものように書物のふろしき包みと弁当をちゃんとさげて、通りなれた川ばた道を半ばぐらいまで歩いて来たときであった。そうして、いつものとおり、近所の友だちと話をしながら帰って来ていたのであったらしい。それにかかわらずその間数十分、あるいは一二時間の間の記憶が実にきれいに消えてしまっていたのである。それから宅へ帰っても、しかられるのがこわいから、この事は両親にもだれにも話さないでいた。考えてみると実に危険なことであった。
こういう場合に対する上記のT博士のいったような注意は、万人が万人日常よくよく心得ていなければならないはずであるのに、今度という今度までついぞ一度も聞いた記憶も読んだ覚えもない。