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さこつ
鎖骨
寺田 寅彦
「工業大学蔵前新聞」1933(昭和8)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,945 字 · 6 页
それはとにかくわれわれ弱い人間が精神的にひどい打撃を受けたときに、頭がぼんやりしたり、一部の神経が麻痺して腰が立たなくなったり、何病とも知れない病人同様の状態になって蒲団を頭からかぶって寝込んでしまったりする。あれもやはり造化の妙機であって、ちょうど「鎖骨挫折」のような役目をするためにどこかがどうかなるのかもしれない。
悲しいとき涙腺から液体を放出する。おかしいとき横隔膜が週期的痙攣をはじめる。これも何か、もっとずっと悪い影響を救うための安全弁の作用をしているに相違ない。それで医術がもっともっと進歩すると、精神のけがでもこれら天然の妙機を人工的に幇助することによって楽に治療できるようになるかもしれない。
自分が今ここでこんな空想を起こしているのも、事によると子供のけがでびっくりして少し頭が変になったせいかもしれないし、それならばまた、こんな事をおくめんもなく書く気になるのは、その天然自然の治療法を無意識に実行しているのかもしれないのである。
(昭和八年一月、工業大学蔵前新聞)