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うし

鎧櫃の血

岡本 綺堂

岡本綺堂『鎧櫃の血』。同一底本的分册已合并为一书。收入:牛、鯉、虎、鼠、夢のお七、魚妖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,702 字 · 99 页

青空文庫

これによって遙に来りて、形の如く営みけるといへり。云々。」

この寺記は同寺第二十世の住職が弘化二年三月に書き残したもので、蜀山人の「一話一言」よりも六十年余の後である。同じ住職の説くところでも、天明時代の住職と弘化時代の住職との話のあいだには、かなりの相違がある。しかもお七の亡霊が武家に仕える者の夢に入って、石碑建立の仏事を頼んだということは一致しているのである。いずれにしても武家に縁のある人が何かの事情でお七の碑を建立するについて、あからさまにその事情を明かし難く、夢に托して然るべく取計らったものであろうと察せられる。

私がこんなことを長々と書いたのは、お七の石碑の考証をするためではない。そういう考証や研究は他に相当の専門家がある。私が今これだけのことを書いたのは、ある老人からそれに因んだ昔話を聞かされたからである。その話の受売りをする前提として、昔もこういう事があったと説明を加えて置いたに過ぎない。

そこで、その話は「一話一言」よりも八十余年の後、さらに円乗寺の寺記よりも二十三年の後、すなわち慶応四年五月の出来事で、私にそれを話した老人は石原治三郎(仮名)という三百五十石の旗本である。