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かがみのなかのつき

鏡の中の月

宮本 百合子

「若草」1937(昭和12)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,290 字 · 15 页

青空文庫

団扇で顔の半分をかくしながら、瀧子は腹立たしいおかしさをやっと堪えた。ああこれはなんという愚劣な告白であろう。

次の日の帰り、汽車がこんで、瀧子は昇降台と車窓との境のところにオリーヴ色の袴の裾をはためかせながら立っていた。村の停車場の端れに川があって、短い鉄橋をゴッと渡ると機関手はいつもスピードをゆるめた。それから構内の組合倉庫が目の前を掠め、露天に砂利を敷いたプラット・フォームにかかるのであるが、機関車から二つ目の車輛にいた瀧子は、汽車が止りかけると、降りようとする人波にさからいながら急に無理な動作で、洗面所の前の見とおしのところへ体を引こめた。改札のところで駅夫と喋っている山口の姿が、むこうでこちらを見るより先に瀧子から見つけられたのは、本当の幸だった。瀧子はとっさにのり越しの決心をした。動き出した汽車の反対側の窓の方に席をとって、人の陰から改札のところを見ると山口は顔をこちらに向け、バットの灰をのばした人指し指ではたき落しながら立っている。

ガッタンと無器用に動き出した汽車はカンナの花の真盛りの構内花壇を通りすぎると、黒い柵に沿って次第に速力を出しはじめた。