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かがみもち
鏡餅
宮本 百合子
「新潮」1934(昭和9)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,163 字 · 15 页
四月であったが寒さのためにリョーマチがついた。石の壁をとおし、床のうすべりをとおし、日光の射さない檻の中の寒さは専吉の膝の骨までしみとおっているであろう。その凍え工合がサエの肌身に感じられる。――
サエが凝っと二階の窓から決して開くことのない留置場の窓に向って目を凝していると、下の内庭へピカピカ光った黒皮のゲートルを巻いた背の高い交通巡査が、裏の通用門の方から入って来た。
股をひろげてこっちに顔を向け焚火に手をかざしていたが、やがて腰をかがめて何か二語三語云った。すると、すぐ隣のハッピの職人が首をあげてサエの立っている窓の方を見上げた。次の一人、またその次、皆順々に顔を動かしてサエの方を見た。真後を向いていた男はわざわざ空箱の上で上体をひねって、見た。サエは、そうやって一人一人に仰向いて見られることから、どんな感情も起らなかった。見上げた方の職人たちも、見あげはしたが誰も何とも云わずまた火の前で手をこすったり、地下足袋をパタパタやったりしている。
なお暫くそうやっていて、サエは包の上から胸を起した。不図うしろをふり向いた。椅子を運び出しながら特高の主任がこっちを見ていた。